日本低フォドマップ食推進会
会長 宇野良治、医師、医学博士
胃酸はバッテリー液のような強い酸(pH=1~2)であるが、十分な粘液が分泌されているために通常では胃自体はダメージを受けない。しかし、胃酸が食道へ逆流すると食道粘膜がダメージを受けて炎症や潰瘍を引き起こす。それが逆流性食道炎であり、その程度によって胸痛や胸やけを引き起こす。
ところが、全く炎症がないにも関わらず、胃液の逆流によって胸痛や胸やけを来すこともある。それを「非びらん性胃食道逆流症」という。この二つを「逆流性食道症」という。
胃食道逆流症(GERD:ガード)= 逆流性食道炎(RF)
+ 非びらん性胃食道逆流症 (NERD:ナード)
つまり、胃食道逆流症とは、胸痛や胸焼けがある場合をいう。
医者は症状を改善させるためにタケプロンやオメプラール、パリエット、ランプラゾールなどのPPIという薬を処方する。しかし、この薬を一か月飲んでも症状が改善しないケースがかなりある。重症のRFでは15~30%であるが、不思議なことに炎症のないNERDの半数でPPIが効かない。このようなケースを「PPI難治性(抵抗性)胃食道逆流症」という。
この原因について、2015年に、日本医科大学の岩切勝彦教授は講演で以下を述べた。
(日医大医会誌2015;11:209)
1. PPIの効果が不十分
2. 食道粘膜知覚過敏
3. 食道運動異常
4. 好酸球性食道炎
5. 精神心理学的要因
1.に関しては、体内に吸収されたPPIの代謝・排泄が非常に速いケースがあり、PPIの使用量を倍増したり、PPIとともにガスターなどのH2ブロッカーを併用する方法もあるが、日本の保険制度では「不適説使用」と判断され、すべて保険請求が査定される。また、タケキャブのような新しい薬のカリウム競合酸ブロッカー(P-CAB)はPPIよりも有効性が期待されたが、2021年の東北大学の報告では、pH4~5でも逆流症状を来すケースではP-CABの効果がないことが報告された。
4.は、内視鏡検査で鑑別診断が可能であるし、極めて頻度が低い。5.に至っては、原因がわからないことの言い訳である。
2.と3.は連動した病態生理機序が関与している可能性があり、その機序を明確にすることによって、難治性ではなくなる可能性のある、いわば、本丸である。
このことについては、過敏性腸症候群などの機能性胃腸疾患の最高峰ジャーナル(インパクトファクター=8以上)で、欧米神経胃腸病学会の機関紙であるNeurogastroenterology&Motilityに掲載された私の「宇野仮説」で考えるとよくわかる。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nmo.13772
宇野仮説:図の解説「IBSにおける内臓過敏症の病態生理を解明するために、FODMAPの発酵と腸管虚血により増加する腸内ガスに注目しました。この経路には、肥満細胞の活性化と、リポ多糖(LPS)および一過性受容体電位バニロイド1型(TRPV1)の増加が含まれます。IBSで過敏症を引き起こす経路を適用して、腸内ガスの増加からGERD過敏症までのプロセスの仮説を提示します。このプロセスの仮説は次のとおりです。ガス量の増加は、結腸内腔の拡張と反応性の過剰収縮を引き起こします。それらは腸粘膜の一過性脳虚血を引き起こします。腸虚血は迷走神経を刺激するだけでなく、胃腸管の肥満細胞活性化を引き起こします。肥満細胞からのメディエーターの放出に加えて、食道過敏症はTRPV1とLPSの増加によって引き起こされます。胃食道逆流症に関連しない非心臓性胸痛でも、症状は肥満細胞の増加と関連しています。以上のことから、発酵によるSCFAとガスの量は、酸曝露と食道過敏症に影響を与えると推測されます。提示されたフローチャートがおおよそ正しければ、低FODMAP食は、GERDを含むすべての非心臓性胸痛に効果的である可能性があります。」
Yoshiharu Uno, GERD by colonic fermentation. Neurogastroenterol Motil. 2020 Mar;32(3):e13772.
上記の仮説は、私のプライオリティである。(これは、私の死後に評価されると思っている)
これまでの重要なエビデンスは以下である。
l FODMAP成分のフルクタンが結腸で発酵すると下部食道括約筋(LES)が緩む頻度が増加して逆流しやすくなる。
l FODMAP成分のラクツロースやラクトースは胃の動きが低下して胃から排泄されにくいため、LESが緩む頻度が増加する。
l FODMAPの発酵で発生する物質である短鎖脂肪酸をボランティアの直腸に注入すると血液中のペプチドYY(PYY)が増加するとともにLESが緩む回数が増加した。
l PPI難治性GERDに対し、従来のGERD食事療法である低脂肪食+アルコールとカフェイン+過食の回避)よりも低FODMAP食4週間で逆流イベントは変化しなかったが、腹部症状が改善した。
★★★ GERD-IBS:過敏性腸症候群のある胃食道逆流症
GERDの32~47%に過敏性腸症候群をもっており、過敏性腸症候群の3分の1にGERDがあるとされている。そして、過敏性腸症候群を有するGERDの多くはPPIに難治性であるため、生活の質(QOL)が低い。
以上から、薬の効かない逆流性症状に対しては、一か月間低FODMAP食を行うべきであろう、
何を隠そう、私自身がGERD-IBSである。
低FODMAPを厳守しなかったことと、アルコール、コーヒーで悪化した。腸内細菌叢まで変化するほどに悪化すると、禁酒、禁コーヒーでも軽快しない。私の経験では、タケキャブで胸痛を生じ、タケプロンは良くも悪くもなく、最も効果的だったのはガスター20㎎x2回であり、今でも飲んでいる。抗ヒスタミン剤も有効だった。スクラートは液タイプしか効果がない(顆粒効果なし)が、効果を得るには一度に6回分必要だった。pH6~7程度の水を200ml飲むと激しい胸痛を引き起こしたが、アルカリイオン水では300ml一気飲みしても胸痛は起きていない。
