日本低フォドマップ食推進会
会長 宇野良治、医師、医学博士
ノーベル賞受賞学者のメチニコフは、今、世界中が注目しているウクライナで生まれた。
彼が有名なのは、ノーベル賞を受賞したミジンコの研究ではなく、彼が死ぬ前のある期間、ヨーグルトを食べると老化を防ぐと信じこんで大量にヨーグルトを食べ続けたというエピソードである。結果的に効果はなく、71歳で死亡した。
しかし、その時代的背景については、あまり詳しいことが知られていないので若干説明すると、1900年頃の欧米の医学界では一流医学雑誌でも、今の日本のように腸の悪玉菌の増殖によって、全ての病気の原因となる「autointoxication: 自己中毒」を引き起こすという仮説(その後、医学界から完全に否定された)が流行しており、そのような悪い菌を追い出すために、他の菌の多い食品が商業化・大量販売された時代であった。(なお、autointoxication: 自己中毒は、体の中の悪い液体がたまって病気を生じるというギリシャ時代の医学の流れのリバイバル)
1900年にレントゲンがX線を発見し、その医学利用は消化管の形態や機能の研究に及んだが、一方で、腸に入れたチューブからの洗腸を行い「悪い菌」を洗い流すという民間治療が大流行したのもこの時期である。話は戻るが、悪玉菌を退治するという宣伝で商品化された乳酸菌入りのヨーグルトは、やがて乳酸菌を錠剤化した「フェルミン」という商品に変わってブームとなったが、1920年頃には衰退した。
https://gutpathogens.biomedcentral.com/articles/10.1186/1757-4749-5-5#Sec1
私が、今回、取り上げたいのは、メチニコフの乳酸菌ではなく、メチニコフがうつ病と心臓発作に苦しんでいということだ。
つまり、
乳酸菌を摂取するとうつ病になるのか?
という課題である。
ということで、調べたところ、千葉大学から、興味深い論文が報告されていた。
J Neuroinflammation. 2020 Aug 15;17(1):241.
Ingestion of Lactobacillus intestinalis and Lactobacillus
reuteri causes depression- and anhedonia-like phenotypes in antibiotic-treated
mice via the vagus nerve
「ラクトバチルス・インテスティナーリスとラクトバチルス・リューテリを摂取すると、迷走神経を介して抗生物質で治療したマウスにうつ病や無快感症のような表現型が生じます」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32799901/
背景: 脳腸内細菌叢の軸は、うつ病などのストレス関連障害の病因に関与しています。この研究では、抗生物質で処理された微生物叢が枯渇したマウスにおける糞便微生物叢移植(FMT)の効果を調べました。
方法: 糞便微生物叢は、慢性社会的敗北ストレス(CSDS)および対照(CSDSなし)マウスにさらされたマウスから得られました。これらの2つのグループからのFMTは、抗生物質で治療されたマウスに対して実行されました。腸内細菌叢の組成を調べるために16SrRNA分析を行った。さらに、微生物摂取後のうつ病様表現型における横隔膜下迷走神経切断術の効果を調べた。
結果: CSDS感受性マウスからの糞便微生物叢の摂取は、無快感症のような表現型、インターロイキン-6(IL-6)のより高い血漿レベル、および抗生物質治療マウスの前頭前野(PFC)におけるシナプスタンパク質の発現の減少をもたらしましたが、水処理したマウスではありません。16S rRNA分析は、2つの微生物(LactobacillusintestinalisとLactobacillusreuteri)がFMT後の抗生物質治療マウスの無汗症様表現型の原因である可能性があることを示唆しました。これら2つの微生物を14日間摂取すると、うつ病や無快感症のような表現型、血漿IL-6レベルの上昇、抗生物質治療マウスのPFCにおけるシナプスタンパク質の発現低下が引き起こされました。興味深いことに、横隔膜下迷走神経切断術は、行動異常の発症、血漿IL-6レベルの上昇を有意にブロックしました。
結論: これらの発見は、抗生物質カクテルを使用した微生物叢の枯渇がFMT誘発性の行動変化の発生に不可欠であり、迷走神経がL.intestinalisおよびL.ロイテリの摂取後の抗生物質治療マウスの行動異常に重要な役割を果たすことを示唆しています。したがって、脳腸微生物軸は迷走神経を介してうつ病の病因に関与している可能性があります。
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すごい論文だ。
この論文の重要なところは、以下である。
It is reported that L. reuteri can rescue social dysfunction
in a mouse model of autism in a vagus nerve-dependent manner. Conversely, we
found that ingestion of L. reuteri and L. intestinalis into antibiotic-treated
mice caused depression-like behaviors via systemic inflammation.
「L. reuteriは、迷走神経依存的に自閉症のマウスモデルの社会的機能障害を救うことができると報告されています。 逆に、抗生物質で治療したマウスにL.reuteriとL.intestinalisを摂取させると、全身性炎症を介してうつ病のような行動が引き起こされることがわかりました。」
この意味は、乳酸菌が大量にあるマウスでは、乳酸菌がストレスに抵抗を示す。しかし、人では乳酸菌がマウスのように多くないので、抗生物質で乳酸菌が減少した状態のマウスと同様であり、ストレスのある状態で乳酸菌を服用すると「うつ症状」が生じる可能性を示唆している。ノトバイオートのマウスを使用して再実験すれば結論が得られるだろう。
しかし、私が興味をもったのは、この実験で使用されたマウスだ。
「慢性社会的敗北ストレス」って、何か?
確かに、私などは、「慢性社会的敗北ストレスの敗北者」であるが、
医学的に何を意味するのか?
「chronic social defeat stress」で、ググると、以下が出る。
「社会的敗北(居住者侵入者テストとも呼ばれる)は、同じ種のメンバー間の社会的葛藤を利用して、感情的および心理的ストレスを生み出します。社会的敗北は、オスの齧歯動物が年上の攻撃的な優勢なオスのホームケージに入れられたときに始まります。」
つまり、こういうことだ。
1日5分、攻撃されるだけでも、10日続くと、
姿を見るだけで、具合がわるくなることだ。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jarq/53/1/53_41/_pdf/-char/ja
私も何度も、このマウスのような経験しているので、皆さんも経験しているだろう。
前述した実験では、インターロイキン-6(IL-6)が増加しているので、論理的には、IBSを引き起こすと思われ、やはり、こういう時は、低フォドマップ食が有効だろう。
