日本低フォドマップ食推進会

会長 宇野良治、医師、医学博士

 

 

 

新しい論文は、一行に数日を要しています。

サクラダファミリアのように、完成しないかもしれません。

たとえば、腸内細菌の2つをとりあげても、

調べればきりがないのです。

 

 

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「善玉菌」の名付け親である光岡知足氏が、2020年12月に亡くなり、1年以上になる。何度も記してきたが、彼が東京大学農学部の教授だった頃、腸内細菌叢の菌の種類は培養法で100種しか認識されていなかった。しかし、最近の16S rRNA分析によるメタゲノム解析では、1000種類以上、100兆個の腸内細菌が存在し、ほとんどの菌の特性が不明であることから、わずか数種類の菌が体の健康に良いという仮説である「善玉菌」という概念は論理的に破綻している。さらに、この言葉が無秩序に独り歩きし、稚拙で不適切な商業的プロパガンダによって、光岡氏の業績そのものが負の遺産になることを私は危惧している。彼がもっと若く、あと10年も生きていれば、「善玉菌」の問題について、きちんと説明し、修正したに違いないと考えると無念である。その意味から、私は、これまで記さなかった「善玉菌」の医学的知識を書き残させねばならない。

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ということで、今回は、「悪玉菌」について記す。


腸の環境に良くない菌にはどのような菌なのであろうか?

よく、TVでは「腸の調子を整える」という言葉が使用されているが、

「腸の調子が悪い」という状態の代表的な病気は「過敏性腸症候群」=IBSである。

IBSは、ストレスの多い現代病のように言われるが、確かにだんだんと増加してきているが、それが日本で認識されたのは昭和30年である。その頃から、IBSの発症に食事が関係していることがわかっていたが、IBSが増えているということは、日本人の食事の変化が「さらに腸の調子を悪くする」方向へ進んでいると言っても過言でなはかろう。

FODMAP的には、菓子のソルビトールやキシリトールのように食べるものに直接的に添加されている場合もあるが、食べたものの成分によって、何らかの腸内細菌が増加して、その増加した菌の特定の作用で腸に悪影響を与えることが多いことがわかってきた。

そのような菌が、IBSでの本当の「悪玉菌」である。

冒頭に記したように、最近の遺伝子分析では、未知の細菌がほとんどであるが、かろうじて判明している細菌のなかでのIBSで増加する菌は以下である。

l  Akkermansiaアッカーマンシリア菌:グラム陰性、便秘型IBSで増加。腸粘液のムチンを分解し、腸粘膜の透過性を亢進させる。パーキンソン病でも増加。水溶性食物繊維で増加し、SCFA(酪酸とプロピオン酸)を産生。

(善玉菌として宣伝している場合もあるが、パーキンソン関連で、むつかしいでしょう。)

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32557853/

Gobert AP, Sagrestani G, Delmas E, et al. The human intestinal microbiota of constipated-predominant irritable bowel syndrome patients exhibits anti-inflammatory propertiesSci Rep 2016;6:39399.

Pozuelo M, Panda S, Santiago A, et al. Reduction of butyrate- and methane-producing microorganisms in patients with irritable bowel syndromeSci Rep 2015;5:12693

https://www.sciencedirect.com/topics/medicine-and-dentistry/akkermansia

 

l  Alistipesアリストぺス菌:グラム陰性、便秘型IBSで増加

大腸がん、うつ病と関連。コハク酸と酢酸を発生。メトロニダゾールに感受性あり。

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2020.00906/full


この菌の特徴は、人間の便中で不溶性食物繊維であるセルロースによって増加することだ。

同様に、同じ条件で増加する菌にはバクテロイデス、Rikenellaceteがあり、ともに、便秘型のIBSでは増加する。

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https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0032579119306753

余談だが、この論文に興味深いことが書かれていた。

非肉食性の動物と人間では、食物繊維は主に、セルロース、ヘミセルロース、オリゴ糖、ペクチン、ガムなどの植物細胞壁物質で構成されています。これらの食物繊維は、小腸消化酵素による加水分解に抵抗するため、遠位腸内の微生物による発酵に利用できます(James et al。、2003)。食物繊維の摂取と人間の代謝の健康との間には相関関係が見られます(Lattimer and Haub2010)。セルロースは、β-1,4-結合したD-グルコピラノシル残基の線状鎖で構成される不溶性食物繊維です(O’Sullivan1997Gilbert2010)。セルロースミクロフィブリルは、穀物の細胞壁の主要な構造要素であり、細胞壁材料のアルカリ抽出後に残留物を形成します(Paterson1995)。ヒトの糞便をセルロースとinvitroでインキュベートすると、少量の短鎖脂肪酸(SCFA)が形成されます。したがって、セルロースは細菌による分解に対して大部分が耐性があると結論付けられました(Vince et al。、1990)。さらなるinvitro発酵研究は、セルロースがさまざまな人間の食品に存在するにもかかわらず、人間の腸内細菌叢がセルロースを発酵するのに適応していないことを示しました(Johathan et al。、2012)。その結果、通過時間を短縮したり、腸内容物の保水能力を高めたりするために、増量剤としてセルロースが推奨されてきました(Hetland et al。、2004Montagne et al。、2003)。

しかし、最近、セルロースは人間にとって非発酵性の炭水化物と見なされるべきではないと述べられました(Brotherton2015年)。実際、ヒトでのin vivo研究では、小麦ふすまからのセルロースの34%が発酵していることが示されています(Nyman et al。、1986)。さらに、セルロースの発酵は、セルロースが微生物に提示される形態に依存する可能性があります。」

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長年、食物繊維のセルロールは体にいいとされ、さらにモナッシュ大学の低FODMAPでも、セルロースは無害なので積極的に摂取しましょうという感じだが、その理由は以上のように、昔は、あまり発酵しないと思われていたためだろう。

私は、自分の医師経験で、低フォドに出会う前から、不溶、水溶にかかわらず、「食物繊維の過剰摂取は便秘になる」と主張して、大いに叩かれた記憶があるが、16S rRNA解析でやっと光が見えてきた。

「セルロースは人では消化できないので栄養とならない」というのは嘘です!3割以上が発酵して栄養源になります。特に便秘のヒトでは発酵させる菌が増加しているので、過剰な野菜だけで太る原因になります。

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さあ、ここで、さらに話が横道に入る。

IBSの病態を調べていくうちに、何度か「コハク酸」Succinic acid

という物質が出てくる。それも、かなりの悪役として、文献に出てくるが、SCFAで精いっぱいなので、ずっと、無視してきた。

でも、便秘型IBSでセルロースの多い野菜を食べて、アリストぺス菌がコハク酸を過剰に産生するというのであれば、少し調べる必要がある。

まず、最初のエビデンスは、コハク酸は実験動物の大腸炎で増加する。

デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性大腸炎のマウスモデルも、コハク酸糞便の増加を引き起こします。これは、疾患の活動性と重症度に対応することが観察されています。IBDの急性炎症と腸の損傷は、粘膜組織からのコハク酸塩の蓄積と放出をもたらす可能性があります。逆に、盲腸コハク酸レベルの低下をもたらす食餌を与えられたマウスは、マウスモデルにおいて結腸炎症の有意な低下を示した。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC6356305/#!po=1.25000

つまり、コハク酸は腸炎と関係するので、IBSでは粘膜透過性亢進につながるかもしれないが、コハク酸のpHはかなり低いはずなので、腸環境の酸性化に影響するか?(たしか、非常に多いコハク酸は下痢を誘導した?)

 

その前に、コハク酸はIBSで増加している。

https://www.mdpi.com/2073-4409/10/6/1459/htm

また、肥満や心臓病の人では血液中のコハク酸が増加している。体重を減らすとコハク酸も減少する。

https://www.nature.com/articles/s41396-018-0068-2

 

また、話はそれるが、IBSの腸内細菌叢を16S rRNAで調べると、とにかく、グラム陰性菌が増加していることに気が付く。グラム陰性菌は腸内毒素のLPSを菌の壁に有しているので、とにかく、IBSではLPSが多いということになる。そして、そのLPSは、コハク酸を増加させることがわかっている。

グラム陰性菌のリポ多糖によって活性化されたマクロファージは、そのコア代謝を酸化的リン酸化から解糖に切り替えます。ここでは、2-デオキシグルコースによる解糖の阻害が、マウスマクロファージの腫瘍壊死因子ではなく、リポ多糖誘発性インターロイキン-1βを抑制することを示しています。リポ多糖活性化マクロファージの包括的な代謝マップは、解糖系のアップレギュレーションとミトコンドリア遺伝子のダウンレギュレーションを示しています。これは、変化した代謝物の発現プロファイルと直接相関しています。リポ多糖は、トリカルボン酸回路の中間体であるコハク酸のレベルを大幅に増加させます

 

ところで、話は戻りますが、腸内で増加したコハク酸は、腸粘膜を通じて循環血漿内に入りというのは定説になっている。

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https://link.springer.com/article/10.1007/s11154-019-09513-z


つまり、コハク酸が腸で増えると、血液のコハク酸も増え、
血液のLPSが増加して、腸粘膜の防御機能を破壊してゆくというサイクルを生じる。

 

以上から、よく、

野菜を食べているのに大腸がんになった。

菜食主義なのにうつ病になった。

野菜を食べているのに太る。

という背景には、セルロース → アリストぺス菌 → コハク酸 の影響があるかもしれない。

 

<つづく>
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(2) 肥満になる悪玉菌

 

さて、前回、野菜を食べても肥満になるということを書きましたが、

今回は、いわゆる昔の善玉菌で肥満になるという話をしましょう。

昔と言っても、今でも「善玉菌」:と言われているので、

TVの善玉菌」と表現しましょう。

つまり、「TVの善玉菌」=「肥満の悪玉菌」

ということを説明します。

 

これまで(今でもTVやネットでもそうですが)、

腸内で発酵する菌が腸内環境を良くして肥満も予防するようなことを流しています。

しかし、腸内で発酵して産生された短鎖脂肪酸が肥満の原因であるということは、

常識ある医者の間ではコンセンサスです。

ということは、短鎖脂肪酸の産生を抑える食事、つまり、低フォドマップ食は、

肥満を予防するということになります。

今回は小児の肥満についての論文を紹介します。


The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
, Volume 101, Issue 11, 1 November 2016, Pages 4367–4376

この研究は、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が健康にいいと、言われ続けていた状況で、どうも、健康というより、子供の肥満を助長しているのではないかという考えからスタートし、その仮説を受けて、研究されたものです。

短鎖脂肪酸は腸での発酵で発生しますが、エネルギーとして使用された残りは門脈から肝臓へ運ばれます。そのため、大量に余ると肝臓で脂肪化して蓄積されます。(成人の菜食主義者の痩せた脂肪肝の病態です。)

研究では、血液中の短鎖脂肪酸の量と肥満度が相関していました。

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さらに、肝臓の脂肪生成も短鎖脂肪酸の量と相関していました。

そして、痩せた子供よりも肥満の子供では、炭水化物を発酵させる腸内細菌が増加していました(16S rRNAによる)。

では、どのような腸内細菌が肥満に関係していたのでしょうか?

答えは以下です。

In particular, 

ActinomycesBifidobacteriumStreptococcus, and Blautia showed a positive correlation with obesity.