宇野良治、医師、医学博士





今回の内容は、来年、英語論文にして投稿する予定である。

 


 

乳酸桿菌が胃癌の予防に寄与するという説がある。

その仮説の理由は3つある。

1)         乳酸桿菌の投与により、ピロリ菌除菌率が上昇する。

2)         乳酸桿菌は抗炎症作用がある。

3)         乳酸桿菌には発がん抑制効果がある。

1)         については、10以上の研究論文があり、事実のようである。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC6204245/

しかし、ピロリ菌除による胃癌抑制効果がさだかではない状況においては、除菌率をアップさせても胃癌の予防を云々ということは言えないが、それについて数多くの研究論文があること自体が奇妙である。

「ピロリ菌除菌+乳酸桿菌で胃癌の発症を有意に減少させるのかどうか」という研究はすぐできそうであるが、そのような報告はない。

2)         抗炎症作用があるという研究は、ほとんどマウスによる実験で、ピロリ菌感染における炎症を抑制できる可能性を示唆する研究であり、乳酸桿菌による炎症の抑制によって胃癌抑制効果が得られたという結果はない。

3)         培養細胞の実験で癌発生を示唆する研究報告はある。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC7186545/

しかし、投与して胃癌は性が減少したという研究そのものがない。

 

一方で、遺伝子解析によって細菌が同定される方法が行われるようになってから、乳酸桿菌が人の慢性胃炎、胃癌で増加しているという研究結果が非常に多く報告されるようになった。

 

1. 健常者では胃に乳酸桿菌が存在しない

2. 慢性胃炎で乳酸桿菌が増加する

3. 胃癌で乳酸桿菌が異常に増加している


このことについて、説明する。
 

 1.健常者では胃に乳酸桿菌が存在しない

  乳酸桿菌が胃の健康に良いのであれば、健常な胃に多く存在し、胃癌で消失するに違いない。しかし、実際は逆で、健常な胃には乳酸菌がほとんど存在しない。

  Z-P Li, J-X Liu, L-L Lu, L-L Wang, L Xu, Z-H Guo, Q-J Dong

  Overgrowth of Lactobacillus in gastric cancer. World J Gastrointest Oncol. 2021 Sep 15; 13(9): 1099–1108.

 


 268
人のGC患者と288人の対照とし、胃生検からDNAを抽出し、

16SrRNA遺伝子解析を行った研究では、乳酸桿菌は検出されなかった。

  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC6753194/


 375
の腫瘍と27の一致する正常組織を含むゲノム解析で正常組織に桿菌が存在しなかった。

  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC7463948/


 

2.慢性胃炎で乳酸桿菌が胃内で増加する

 

   9つの研究のうち7つが慢性胃炎で乳酸桿菌が増加することを示した。
   

  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC8465450/


 

3.胃癌のある胃粘膜では乳酸桿菌が増殖している

 
 16SrRNA遺伝子解析を行った研究では、乳酸桿菌が、正常粘膜や慢性胃炎に比して胃癌の粘膜で統計学的に有意に増加していることが多数報告されている。

  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC8465450/

 

4.乳酸桿菌による胃癌の発生機序

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC8465450/


まず、胃癌の発生機序でのファーストステップは胃のp上昇である。胃のpHはピロリ菌が存在する場合、あるいは強力な胃酸抑制薬(PPIなど)を服用している場合に上昇するため、乳酸桿菌は胃内に存在しやすくなる。つまり、胃酸抑制剤を服用していないピロリ菌未感染者の場合、おおむね乳酸桿菌が胃内で増殖しない。

さらに、もし、乳酸桿菌が胃癌とダイレクトにリンクしていると仮説した場合、ピロリ菌と乳酸桿菌が共存している場合、ピロリ菌陽性者では胃癌が多くなることになり、ピロリ菌がダイレクトに胃癌と関係していると導かれる。その場合、除菌によってピロリ菌が消失しても、萎縮が広範に残存している状態では胃のpHが高く、乳酸桿菌の増殖に適しているため、ピロリ菌消滅にもかかわらず胃癌を生じることになる。胃癌が最も生じやすいのはピロリ菌が胃に住めなくなるほどに胃炎が進行した状態であるが、除菌しなくとも自然にピロリ菌が消失した場合、胃癌を発生するのは何らかのほかの因子の関与があるとすれば、ストリーとして矛盾はない。

プレバイオティクスの研究から考えると、ピロリ菌が減少から消失に至ると乳酸桿菌が優勢になる。この状態は胃内細菌叢の有害な細菌が増加するDsbiosisとパラレルになり、発癌物質であるN-ニトロソ化合物を産生させる細菌を胃内に増殖させる。乳酸菌には硝酸塩を亜硝酸塩に変換させる能力がある[Forsythe, Calmels]。さらに、乳酸菌そのものは、乳酸解糖によって乳糖を産生する。乳糖にはがん細胞成長促進作用がある。乳酸桿菌はDNA損傷を引き起こす高活性酸素刺激細菌と認識されているため[Jones]、これが発がんの直接因子である可能性も指摘されている

以上を図で示すと以下である。

いがん

 

 

l  Forsythe SJ, Dolby JM, Webster AD, Cole JA. Nitrate- and nitrite-reducing bacteria in the achlorhydric stomach. J Med Microbiol. 1988 Apr;25(4):253-9

l  Calmels S, Béréziat JC, Ohshima H, Bartsch H. Bacterial formation of N-nitroso compounds from administered precursors in the rat stomach after omeprazole-induced achlorhydria. Carcinogenesis. 1991;12:435–439. 

l  Jones RM, Mercante JW, Neish AS. Reactive oxygen production induced by the gut microbiota: pharmacotherapeutic implications. Curr Med Chem. 2012;19:1519–1529.