Uno Y, MD, PhD

 

Trehalose and Clostridium difficile

トレハロースは、グルコースが2個結合した糖類の一種であり、酵素トレハラーゼによってグルコースに分解される。自然な食品ではキノコに豊富であり、低トレハラーゼ活性の場合、過剰なトレハロースによってキノコ不耐症を来たす。酵素であるトレハラーゼは、ラクターゼ、スクラーゼとともに、小腸の絨毛から生じるが、小腸に異常を来すクローン病との関係が問われたこともある。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/478207

 

安価な人工的トレハロースは、日本で開発され、甘味と保湿効果から、ありとあらゆる日本の加工食品に添加されている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B9

 

また、健康食品分野では糖尿病に対する有効性が研究されてきた。

 

しかし、

2018年、食品にトレハロースを加えると、有毒性であるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficileCD)による感染症が増加することが、天下のNature誌で報告された。

これは、米国、オランダ、英国の共同研究であった。

 

Collins J., Robinson C., Danhof H. Dietary trehalose enhances virulence of epidemic Clostridium difficileNature. 2018;553:291–294.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5984069/

 

この報告は、世界中の食品業界や糖尿病に有益であるという研究者に衝撃を与えた。

https://www.biomerieuxconnection.com/2018/11/29/dietary-trehalose-a-double-edged-sword-in-diabetes-and-c-difficile-infections/

 

この報告は、日本もネットで取り上げられた。

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/221758

https://www.mag2.com/p/news/347866/3

 

これに対し、NPO法人『食の安全性と安心を科学する会』

CD感染のアウトブレイク時期と、トレハロースの流通時期と乖離すること、さらに、検討されたCDの有害株がトレハロースのみではなく、グルコース、果糖ソルビトールでも増殖するということから、この論文は、「科学的根拠に欠き事実に反する」と記した。

http://www.nposfss.com/cat3/fact/trehalose.html

 

 

2019427日、英国のオックスフォード大学の研究者らは、

CD感染とトレハロース摂取量に相関性がなく、トレハロースによってCD感染が増加したのではないという論文を公開した。


トレハロース

Clostridium difficile trehalose metabolism variants are common and not associated with adverse patient outcomes when variably present in the same lineage.

Eyre DW, Didelot X, Buckley AM, Freeman J, Moura IB, Crook DW, Peto TEA, Walker AS, Wilcox MH, Dingle KE.

EBioMedicine. 2019 May;43:347-355.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6558026/

 

 

では、臨床医の立場から、この問題を考えてみたい。

CD感染の典型的な消化器疾患は、偽膜性腸炎である。これは、抗生物質起因性腸炎のひとつであるように、抗生物質の使用と関連している。さらに、偽膜性腸炎はPPI(プロトンポンプ阻害剤)の使用ともリンクしている。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5902504/

 

たとえば、胃瘻患者が嘔吐して、誤嚥性肺炎になり、抗生剤を使用中に、胃瘻チューブからコアグラ(血液凝集)が出たというので、PPIを使用して数日後に、頻回の下痢を来し、便培養でCDが検出され、大騒ぎになるということは、いわゆる老人病院で非常に多い。

 

トレハロースが関与するというストーリーとしては、その必要条件として、その分解酵素のトレハラーゼの活性が低下していなければならない。トレハラーゼが十分に作用すれば、小腸でグルコースに分解されるからである。そして、トレハラーゼの活性が低下するためには、小腸の絨毛の萎縮を生じていなければならない。小腸の絨毛萎縮は、SIBOでも生じえる。SIBOは、抗生物質やPPIによっても生じやすい。

つまり、抗生剤やPPIの使用で、SIBOを生じている場合、トレハロースはCDのエサになる可能性がある。さらに、有色人種では、トレハラーゼ欠損症の頻度は白人よりも多く、1割以上存在するので、白人よりもCD感染を発症しやすい可能性もある。