名古屋:ピロリ菌除菌で胃癌減らない;除菌しない提案

 

Uno Y

 

2014年に私が「ピロリ菌を除菌するな」という電子書籍を公開した頃、一部の医療情報サイトでは「ピロリ菌は除菌するなというキチガイ医者はさておいて。。。」と表現された。異端者ではなく狂人としての烙印は、それはある意味、嬉しくもあった。キチガイと言われても私には、確信があったからだ。同年、米国のNY大学のMartin Blaser教授が執筆した『Missing Microbes』が出版され、日本以外では話題となった。その本には、ピロリ菌の発がん性が報告された直後に十分な検証もないまま、すぐに製薬会社のスポンサーがついて除菌治療推進研究会が発足し、『見つけて、絶滅せよ』というプロパガンダが広がった事実が細かく記載されていた。

人類史において、科学に大きな利益が介入すると、暴走を生み出すことは繰り返されている。

そして、それは、おおむね正しくはない。

私は、Martin Blaser教授と個人的に連絡をとり、自分の考えは、狂人の妄想ではないと確信していた。

 

今年、私は、韓国学会の英文医学雑誌にピロリ菌除菌で一時的に胃癌が減少するのは、ピロリ菌除菌による抗癌作用ではなく、除菌後の胃粘膜の変化によって、胃癌が発見しにくくなる『潜伏癌』になっただけであって、除菌しても胃癌のリスクは低下しないと記した。それは九州大学から報告されたMaehataらの論文に対する考察であった。

 

Uno Y. "Latent Gastric Cancer" after Eradicating Helicobacter pylori. Gut Liver. 2018 May 15;12(3):367-368

<論文の日本語訳>

ピロリ菌を除菌した後の異時性胃癌(MGC)は、原発性早期胃癌の内視鏡的切除(ER)後に生じる胃癌である。ER1年以内に発見された胃癌は同時胃がんとみなされるべきであるため、MGC ERの少なくとも1年後に原発性胃癌以外の部位に発生する新しい胃癌と定義される。萎縮のない粘膜、萎縮および/または腸上皮化生はピロリ菌感染者の胃で見られるが、原発癌を発症する粘膜は最もリスクが高い背景粘膜である。したがって、ピロリ菌を除菌することによってMGCを予防できるかどうかは、除菌治療を正当化するための最も重要な要因の1つである。 2012年にMaehataらは、11年間の観察研究で、ピロリ菌除菌後5年目にMGC発生率が増加したことを初めて公表した。彼らのデータは、5年後の累積発症率がピロリ菌除菌療法を受けなかった群と同等であることを示した。したがって、MGCは、ピロリ菌除菌後5年以内に内視鏡的に検出することが困難な「潜伏性胃癌(LGC)」となったと私は考えている。

2008年のFukaseらの研究では、ピロリ菌除菌でMGCを予防することができると報告されたが、その観察期間は3年間であった。Yoonらは2014年に13件の臨床試験のメタアナリシスを行い、ピロリ菌除菌でMGCを予防すると報告した。しかし、これらの13の研究の観察期間は、2361ヶ月の範囲であった。言い換えると、Yoonらのメタアナリシスは、 Maehataらの研究で用いられた観察期間の前半のみをカバーしていた。したがって、5年間の観測期間内に実施された多くの研究によって、LGCの存在を証明することができるであろう。最近の研究では、Maehataらは11年の調査期間の前半(図1の斜線部)に胃癌が検出されなかった理由を調査したものである。

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Maehataら除菌成功後に検出されたMGC病変は小さく、陥凹であったが、リンパ性および静脈浸潤の有病率が高いことが判明した。理論的には、5年後、そのようなMGCは根絶のない純粋な胃癌と比較してより進んだ段階に発展する可能性がある。したがって、除菌後、5年以内にMGCを検出することが重要である。しかしながら、このような小さなMGC病変は、ピロリ菌除菌後に誘発される改善された胃酸分泌のような影響のために、非腫瘍性上皮によって時々被覆される。これは、ピロリ菌を除菌することによって人工的に処理された新しい形態学的癌であり得る。さらに、LGCは、ERによって処置された早期胃癌患者のみならず、無症候性慢性胃炎のピロリ菌除菌後の患者においても起こり得る。 MGCにかかわらず、ピロリ菌除菌後の胃癌は、特徴的な腫瘍表面構造の不明瞭な境界または消失のために、内視鏡的に診断することが困難なことがよくある。また、早期胃癌の伝統的な内視鏡診断法は、日本では半世紀以上にわたり、ピロリ菌に感染した胃の自然経過に基づいており、LGCには適用されない可能性がある。平均レベルの訓練を有する内視鏡医がこのようなLGCを検出することはしばしば困難である。したがって、これらの患者がピロリ菌除菌すべきかどうかについて議論すべきである。この治療を取り巻く誇大宣伝のために、ピロリ菌除菌を受けたほとんどの患者は、がんのリスクが低下していると信じているため、フォローアップに参加しない可能性がある。事実、内視鏡的フォローアップを受けなかった5人の患者が日本で死亡したことが報告されている。これらの患者は、原発癌のER5年以上経過してMGCから死亡した。したがって、私は、Maehataらの結果は、一般的にこれらの問題に苦しんでいる日本、韓国、中国の患者に言及しなければならないと考えている。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5945269/

 

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20181110日、日本消化器内視鏡学会近畿支部会において、「ピロリ菌を除菌すべきではない」と私は公言した。

20181117日、日本消化器病学会東海支部会のシンポジウムにおいて、その最後に、司会者が「ピロリ菌を除菌しない方がいいという意見も考慮すべきかもしれません」と発言があった。

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そのシンポジウムで、注目すべき報告は以下であった。

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データでは除菌した方が、胃癌発生率が高かったのである。

私は、質問した。

「近畿支部から来ました。私は、内視鏡のバイトで月200人の内視鏡を行っています。」

名前は出さなかった。

「先週の近畿支部例会で、大阪の北野病院から、除菌後の9.6%に胃癌が発生したと報告されました。2001年のNew Eng Jの上野先生の報告では除菌していないピロリ菌感染者の胃癌の発症率は2.9%なので、除菌すれば3倍胃癌が増えるのではないか?と質問したところ、二つの研究では、対象者の背景、つまり、性差、年齢、胃炎の程度が違う、つまり、セレクションバイアスがあるのではないかとの話でしたが、先生の今回の研究では、除菌した群と除菌しなかった群ではそのような背景の違いはなかったという事でよろしいでしょうか?」

それに対して、演者は「はい、そうです」と答えた。

 

つまり、除菌後の3年以内の短期間でも、きちんと内視鏡で潜伏癌を発見することが出来れば、除菌しない場合と同等(データではそれ以上)の胃癌が見つかるということである。

 

その後、除菌後の胃癌が、正常粘膜で覆われているため、腫瘍の境界(Demarcation line)が不明となり、発見が難しいことが次々と報告された。まさに、私の論文の通りであった。そして、シンポジウムの最後に司会者が、「ピロリ菌を除菌すると胃癌が見えなくなるので、除菌すべきではないという先生もいますが、その意見も考えねばならないかもしれない」

というニュアンスのことを話した。

 

狂人と烙印を押されて、4年を経て、九州から疑問が示され、関西と東海という人口4000万人に近い地域の医師たちが、理解を示すようになったことは、感慨深い。

 

『時間は真実の味方である』

Martin Blaser教授が記している。

 

実は、私は新幹線で名古屋に降り立った瞬間から、この地の強いパワーを感じた。名古屋には、旧友の髙木敦先生がいる。日本低フォドマップ食推進会のオーストラリア支部長も名古屋出身である。また、宇野コラムには、名古屋の人の好意的なコメントが多い。これまで出会った名古屋の人で悪い人はいなかった。小さい頃、名古屋にいた祖父の姉の膝で絵本を読んでもらった記憶がある。

 ということで、名を名乗らない私は、以下のコメントを会場の医師に伝えた。

 

  • 除菌後の逆流性食道炎の発生率は、除菌前の胃炎程度に相関する。

胃炎が軽度の若年者ではその後のバレット食道が高齢者より悪化することが、今後問題となるであろう。これは論文になる。特に、除菌後に逆流性食道炎やバレット食道が増加することによって若年者がPPIを長期間服用すると、胃がん、大腸癌、その他の疾患が増加して、死亡率が増加する懸念がある。

http://blog.livedoor.jp/yoshiharu333/archives/2017-07-10.html

 

 

  • 除菌後の胃癌の非腫瘍組織の被覆には生検による影響が関与している。

私は、除菌後のpH低下によって、胃癌組織が表層で消失するために隆起することが出来ず、表層を覆われて深部で発育すると仮説を立てている。これが証明されれば、かなりインパクトのある研究になる。

 

そして、やはり、今回の学会でも、除菌後には胃癌発生が心配なので、年に1回は内視鏡検査が必要とのことは強調されていたが、それによる日本の医療費の高騰を懸念すべきであろう。

 

 

最後に、ピロリ菌陽性者だけ、スクリーニングすべきという一部の学者の考えがあるが、日本では、なぜか、ピロリ菌陰性の印環細胞癌が増えているように感じているので、ピロリ菌陰性者を「低胃癌発症群」として無視することは、それなりのリスクがあると最近感じていることを指摘する。

 

今回は、名古屋に行って帰ってきただけ(高島屋には入った)であるが、また、行きたい。


失われてゆく、我々の内なる細菌
マーティン・J・ブレイザー
みすず書房
2015-07-02