デノボ胃癌は増加するか?De novo gastric carcinoma

 

Uno Y

 

胃癌の前に、大腸癌の説明をする。

大腸癌はポリープ状の大腸腺腫(良性腫瘍)が大きくなって癌化してゆく。それをadenoma-carcinoma sequence腺腫-癌連関という。そのような場合は、大腸内に多くの腺腫があり、また、癌自体の周囲組織に腺腫組織が残っていることがその証拠となる。一方で、大腸腺腫を介さず、正常粘膜から突然に癌細胞が発生し、大腸癌を来す場合がある。それをde novo(デノボ)癌という。東京医科歯科大学の中村恭一教授は、著書「大腸癌の構造」で、デノボ癌が大腸癌のメインルートではないかと主張した。そして、デノボ癌の場合には、サイズが小さくても深く浸潤することがあり、ポリープ状の腺腫を見つけるよりも、小さなデノボ癌を見つけるべきであると主張したのが昭和大学の工藤進英教授であり、日本で大いに論議されたのが1990年代である。欧米では日本と比べて、非常に大きな大腸腺腫がゴロゴロ存在しており、欧米で大腸癌研究の実績がある東京大学の武藤徹一郎教授は大腸腺腫が大腸癌になることがメインルートであり、de novo癌は、あったとしてもわずかにすぎないとした。日本人研究者が大腸のde novo癌の重要性を米国の学会で話しても、「日本の風土病ではないか?」と言われた時代があった。

この問題について、私も興味を持ち、大学病院の大腸癌の手術記録をすべて検索し、大腸腺腫を併存している大腸癌の割合を調べた。その結果、約7割が大腸腺腫を併存していないことがわかり、中村恭一教授にそのデータを送ったことがある。つまり、30年前の北日本では、大腸のde novo癌が多かったと思われる。(ただし、現在の都市部では腺腫による大腸癌が増加しているであろう。)
なお、私は、その後、中村恭一教授の大腸癌の組織学的診断基準と欧米の診断基準が異なることを論文にして米国に投稿したが、それについて、故丸山雅一先生(
早期胃癌検診協会)から、「売国奴」と評された。
Uno Y, Munakata A, Tanaka M.The discrepancy of histologic diagnosis between flat early colon cancers and flat adenomas. Gastrointest Endosc. 1994 Jan-Feb;40(1):1-6.

「売国奴」というのは、ある意味、「知られたくない真実」という意味であり、私は名誉に思っている。

 

さて、話は、胃癌に移る。

これまで日本ではピロリ菌の感染によって胃炎が起こり、萎縮性胃炎、腸上皮化生から胃癌になるというルートがほとんどであるため、胃癌予防のためには胃炎を改善させるピロリ菌の除菌を行うべきとして、日本中で除菌治療が行われている。しかし、胃癌にも大腸癌と同じように、腺腫を介する胃癌と、腺腫を介さないデノボ癌があるということがわかってきた。

2017年、韓国のソウル大学からの報告では、デノボ癌がおよそ8割であった。

http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0178419

Choi JM, Kim SG, Kim J, Han SJ, Park JY, Oh S, Im JP, Kim JS, Kim WH, Jung HC. Clinical implications of pre-existing adenoma in endoscopically resected early gastric cancers. PLoS One. 2017 May 25;12(5):e0178419.

 

そして、腺腫から胃癌を発生するのは15.6%であった。

さらに、腺腫による胃癌とデノボ胃癌との違いは以下であった。

1図1
 

ピロリ菌感染は、腺腫を介する胃癌と強く関連している。
そして、萎縮性胃炎、腸上皮化生から癌になるルートに腺腫が介在しやすい。

デノボ胃癌は、小さい陥凹病変である。

腺腫を介する胃癌は大きく隆起しているので見つけやすい。

しかし、ピロリ菌が関係しないデノボ癌は、小さく、見つけにくい。


日本では、ピロリ菌感染が自然減少し、さらに除菌治療が行われているため、

今後、内視鏡でも見つけにくいデノボ胃癌が増加してゆく可能性は否定できない。