Y Uno
「智に働けば角が立つ。情に棹せば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角にこの世は住みにくい。」
夏目漱石「草枕」
とかく、この世は、いいかげんなものである。
グルテンフリー食は、小麦粉に含まれるグルテンという蛋白質を除去した食品である。
本来の適応者は、グルテンによって発症するセリアック病である。セリアック病は、グルテンに対して免疫反応が過剰に生じ、自分の小腸の上皮細胞の損傷を来す自己免疫性疾患である。
セリアック病ではないが、グルテンに過敏に反応して、胃腸症状を来す場合を、非セリアックグルテン過敏症という。簡単にいうとセリアック病の予備軍である。この場合もグルテンフリー食の適応になる。
しかし、それらではなく、「なんとなく、健康食の感じ」から、欧米では、グルテンフリー食が流行した。それに拍車をかけたのが、海外の芸能人であった。彼らは、「グルテンフリーは痩身効果がある」と言い出した。これらについては、以前にこのコラムで記した。
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<削除した宇野コラムの過去記事>
グルテンフリーの理由
公開日:2014/09/10
世界レベルでは、グルテンフリーに関しての多くの動画がすでに存在する。
そのなかのひとつの講演のスライドを日本語にしたのが下の図である。
(図)
Dr. Peter Osborne
https://www.youtube.com/watch?v=cv5RwxYW8yA
実際にセリアック病や小麦アレルギーのみではなく、
セリアック病と関係があるとされる様々な病気の人が、
たとえば、関節リウマチ、うつ病、甲状腺疾患、喘息などの人が、
どんどんグルテンフリーをとり入れ、
そして、
ダイエットにも効果があるという話が拍車をかけて、
世界的に大変なことになっているのだ。
(体重が減るのは、直接的影響ではなく、グルテンフリーにすると食材を選ぶため、
2次的に体重が減る)
文献的には、
Coeliac disease--associated disorders and survival.
Collin P, Reunala T, Pukkala E, Laippala P, Keyriläinen O, Pasternack A.Gut. 1994 Sep;35(9):1215-8
甲状腺疾患Scand J Gastroenterol.2012 Jan;47(1):43-8
線維筋痛症Rheumatol Int.2014 Apr 12. [Epub ahead of print]
等があるが、
他にもグルテンフリーが良いという疾患がある。
嚢胞性線維症J Cyst Fibros.2009 May;8(3):198-202
小脳運動失調症Cerebellum.2014 Oct;13(5):623-7.
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非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)はIBSの6~7%
公開日:2015/06/22
セリアック病とは、小麦、大麦、ライ麦などに含まれるグルテンによって異常な免疫反応が小腸粘膜で起こり、粘膜の炎症や萎縮が起こり、腹痛、下痢、栄養障害などを引き起こす病気である。
米国では、人口の約1%がグルテンによるセリアック病であると推計されている。
さらに、セリアック病ではないものの、グルテンに過敏なために、過敏性腸症候群の症状を来す場合を、Non-Celiac Gluten Sensitivity (NCGS)という。
(なお、このNCGSを直訳すると、「非セリアック病グルテン感受性」となり、意味が通じないので、私は、「非セリアック・グルテン過敏症」と訳している。)
米国では人口の6%がNCGSであると推計されている。
以上から、米国で、グルテンを避けねばならない人口は全体の8%であるが、現在の米国では人口の約30%がグルテンフリー食を選んでいるという。
これは、30%の人はセリアック病を意識しているのではなく、NCGSを意識して、つまり、IBSの症状があるのではないか?とも考えられる。
イタリアのラクイラ大学からの報告では、自分がセリアック病やNCGSではないかと自覚している392人を調査したところ、セリアック病は、2人(0.5%)、
小麦アレルギー26人(6.63%)、NCGSは27人(6.88%)であった。
<文献>
Digestion. 2015 May 30;92(1):8-13. [Epub ahead of print]
Non-Celiac Gluten Sensitivity among Patients Perceiving Gluten-Related Symptoms.
つまり、グルテンフリー食を必要なのは、7.38%であり、米国の推計と一致する。
では、それ以外のおよそ人口の2割のIBS症状に対して有効な食事はなんであろうか?と考えた場合、低フォドマップ食しかないという結論になる。
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さて、セリアック病であるが、
欧米では、1980年から急増した。
米国の集団がピロリ菌を失ったのは1970年であり、ピロリ菌を失ったために、ピロリ菌による免疫調整が低下し、グルテンに過敏に反応するようになったのではないか?という考察の基に、多くの研究が行われた。
2013年、
実際に、セリアック病ではピロリ菌がきわめて少なく、逆にピロリ菌を保有していればセリアック病にかかりにくいということが判明した。
その論文の要旨は以下である。
Decreased Risk of Celiac Disease in Patients With Helicobacter pylori
Colonization.
ピロリ菌のコロニー形成を持つ患者はセリアック病のリスクを減らす
[要旨]
セリアック病(CD)の有病率は数十年で増加しているが、その理由は不明である。我々はピロリ菌感染とCDの関係を調べるために、上部消化管内視鏡検査を受けた患者について、その関係を調査した。2008年1月から2012年6月の4.5年間に上部消化管内視鏡検査を受けて胃や十二指腸の生検の提出された患者の横断研究を行った。そして、CDのない人とCD患者におけるピロリ菌の有病率を比較した。患者の年齢、性別、人種、民族、そして社会経済的要因についてオッズ比を調整し、多重ロジスティック回帰分析を行った。 136179患者のうち、 2689の合計(2.0 %)は、CDを持っていた。ピロリ菌の有病率は、CDなし(8.8%)に比べて、CDの患者(4.4%)で有意に低かった(Pは0.0001未満)。上記共変量調整後でも、この逆の関係が強いままであった。この関係は男性と女性と、すべての年齢層で類似していた。このピロリ菌の存在とCDとの関係は、社会経済的要因の調整後でも同様であった。今後の研究では、摂取されたグルテンに対してピロリ菌がどのような免疫応答を調節するかを調べる必要がある。
Lebwohl B, Blaser MJ, Ludvigsson JF, Green PH, Rundle A, Sonnenberg A,
Genta RM. Decreased Risk of Celiac Disease in Patients With Helicobacter pylori
Colonization. Am J Epidemiol. 2013,178:1721-30.
また、米国テキサス州のデータが公開された。

ピロリ菌感染が減少した小児と若年者にセリアック病が増加していることがわかる。
2015年、18歳以上を対象としたアルゼンチンの報告では、
ピロリ菌感染は、セリアック病で12.5%、非セリアック病で30%であり、
ピロリ菌陰性者でのセリアック病発生率は2倍以上であった。
Lasa J, Zubiaurre I, Dima G, Peralta D, Soifer L.HELICOBACTER PYLORI PREVALENCE IN PATIENTS WITH CELIAC DISEASE: results from a cross-sectional study. Arq Gastroenterol. 2015 ;52 :139-42.
2016年のインドからの報告でも、1から18歳のセリアック病でピロリ菌陽性者は11.4%で、非セリアック病でピロリ菌陽性者は50%であり、統計学的に有意(P<0.001) に、セリアック病でピロリ菌未完者が多かった。
Narang M, Puri AS, Sachdeva S, Singh J, Kumar A, Saran RK.Celiac disease and Helicobacter pylori infection in children: Is there any Association? J Gastroenterol Hepatol. 2017 Jun;32(6):1178-1182.
つまり、ピロリ菌感染は、セリアック病を予防する可能性がある。そして、ピロリ菌陰性者では、セリアック病のリスクが高い可能性がある。
しかし、その発生機序については、未だに、論争中であることも事実である。
Middle East J Dig Dis. 2016 Apr;8(2):85-92.
Pathological and Clinical Correlation between Celiac Disease and Helicobacter Pylori Infection; a Review of Controversial Reports.
Rostami-Nejad M, Javad Ehsani-Ardakani M, Assadzadeh H, Shahbazkhani B, Ierardi E, Losurdo G4, Zojaji H, Alizadeh AM1, Naderi N, Sadeghi A, Zali MR.
Author information
Abstract
There are overwhelming reports and descriptions about celiac associated disorders. Although there is a clear genetic association between celiac disease (CD) and some gastrointestinal disorders, there are controversial reports claiming an association between CD and Helicobacter pylori (H. pylori) infection. Different studies indicated the possible association between lymphocytic gastritis and both CD and H. pylori infection, although this evidence is not consistently accepted. Also it was shown that an increase in intraepithelial lymphocytes count is associated with both H. pylori infection and celiac disease. Therefore the following questions may raise: how far is this infection actually related to CD?, which are the underlying patho-mechanisms for these associations? what are the clinical implications? what is the management? and what would be the role of gluten free diet in treating these conditions? PubMed (PubMed Central), Ovid, ISI of web knowledge, and Google scholar were searched for full text articles published between 1985 and 2015. The associated keywords were used, and papers described particularly the impact of pathological and clinical correlation between CD and H. pylori infection were identified. In this review we tried to answer the above questions and discussed some of the recent developments in the pathological and clinical aspects of CD and H. pylori infection.
このような論争中の議論では、自分がどの派閥に属するかで意見が分かれる。
私は、米国NY大のBlaser教授のシンパなので、
グルテンフリーは、ピロリ菌陰性者にとって(セリアック病を予防する、あるいは改善させるために)有用であると結論する。

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