2017年10月12-15日、福岡にて第59回日本消化器病学会大会が開催される。
そのなかで、ピロリ菌除菌後の胃癌についてのパネルディスカッションがある。
「パネルディスカッション3.H.pylori除菌後胃癌の問題点」
そのなかの抄録で興味深いのは以下である。
◎渡海義隆、山崎琢士、河内洋
早期胃癌検診協会、がん研有明病院(消化器内科、病理部)、東京慈恵会医大(消化器・肝臓内科)
除菌で診断が容易になることがある一方、除菌後の背景胃粘膜の形態・色調変化によりむしろ診断が困難になる場合があることが判明した。一部では病変の領域性が不鮮明で深部浸潤例ですら診断が困難な場合があり、除菌後の新たな問題と考える。
◎小刀崇弘、伊藤公訓、茶山一彰
広島大大学院(消化器・代謝内科)
除菌後にみられる発赤陥凹には相当数の腫瘍が潜在している。
◎堀田徳之、田原智満、大宮直木
藤田保健衛生大(消化器内科)
Hp除菌後に発見される早期胃癌は表層細胞分化による低異型度上皮の出現や再生上皮の被覆により内視鏡診断が困難になる。
つまり、除菌後に発生する胃癌は、ピロリ菌陽性の胃癌と異なって表面が覆われるため、従来のピロリ菌陽性胃癌の診断方法では、発見しにくく、進行してから発見される可能性があるということになる。
ここで、数年前、あるセミナーである教授が言ったことを思い出す。
「ピロリ菌除菌後に胃癌が減少したという研究はありますが、それは除菌後による胃粘膜の変化によって内視鏡で発見しにくくなっただけではないか?」
さて、ピロリ菌陰性群に胃癌が発症しないという有名なグラフは以下である。
Uemura N et al. N. Engl J Med, 345:
784-789, 2001
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa001999#t=article
研究対象者は、1246人のピロリ菌陽性者と、陰性者は280人。
2005年、マーシャルとウオレンは「ヘリコバクター・ピロリおよびその胃炎や胃潰瘍における役割の発見」でノーベル賞を受賞したが、癌との関係のこのような論文が後押ししたのは想像できる。
そして、ピロリ菌を除菌すれば、胃癌が減少するという考察に基づき、
ピロリ菌陽性者への除菌療法が行われ、その効果が報告された。
2008年、日本から、3年間の観察結果が報告された。
Fukase K1, Kato M, Kikuchi S, Inoue K,
Uemura N, Okamoto S, Terao S, Amagai K, Hayashi S, Asaka M; Japan Gast Study
Group.
Effect of eradication of Helicobacter
pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic
resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial.
Lancet. 2008 Aug 2;372(9636):392-7.

除菌群272人、コントロール272人
除菌群でも胃癌が発生するが、除菌しない群よりも発生率が低かった。
ところが、2014年、除菌後でも胃癌発生が減少しないという論文が韓国から報告された。
Choi J, Kim SG, Yoon H, Im JP, Kim JS, Kim WH,
Jung HC. Eradication of Helicobacter pylori after endoscopic resection of
gastric tumors does not reduce incidence of metachronous gastric carcinoma. Clin Gastroenterol
Hepatol. 2014;12:793–800.
一見、除菌群(Eradication)がコントロールよりも癌の発生が低いように見えるが、統計学的に有意差がなかった。対象者は901人(除菌群444人、未知量457人)である。
韓国と日本は違うと思うかもしれない。
その意味で、
最も注目すべき論文は、胃癌研究の日本の大ブランドの九州大学からの報告である。
Maehata Y, Nakamura S, Fujisawa K, Esaki M, Moriyama T,
Asano K, Fuyuno Y, Yamaguchi K, Egashira I, Kim H, Kanda M, Hirahashi M,
Matsumoto T.
Long-term effect of Helicobacter pylori eradication on
the development of metachronous gastric cancer after endoscopic resection of
early gastric cancer. Gastrointest Endosc. 2012 Jan;75(1):39-46.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22018552
10年の長期観察では、癌発生率に差がなかったのである。
著者らは、ピロリ菌除菌は胃癌発生を抑制しないと結論した。
そして、ある程度、萎縮が進行した例では除菌の効果が期待できない可能性を示唆した。それは若年者での除菌を推奨する理由ではあろうが、若年者除菌後の有効性についての研究報告は存在しない。また、萎縮が改善しない症例は逆に従来通りの診断方法で胃癌が診断できる可能性があり、萎縮があることが必ずしも悪いことばかりではないかもしれない。
この研究で、注目すべきは、5年以内は除菌群では胃癌は発見されないが、5年以降に除菌群で胃癌が増加するということである。
これが、ある教授が言ったことにつながる。
「ピロリ菌除菌後に胃癌が減少したという研究はありますが、それは除菌後による胃粘膜の変化によって内視鏡で発見しにくくなっただけではないか?」
そして、現在、ピロリ菌除菌群で、発見しにくくなった胃癌をどうやって探すかが、課題となっている。
この問題についての考察を図に示す。





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