コメント:IBSで腹痛が生じる理由
<コメント>
先生の本を頼りに、小麦粉、乳製品、多くの野菜を制限してかなり楽になっている今日この頃ですが、それでもわからないことも多々あり、こうしてブログを最初から拝見させて頂いてます。
2016年12月11日のブログを読んでお伝えしたくメールをしました。
私はこの3年間、まさにこのS状結腸に圧迫痛がありました。どの医者にかかっても良くならず、唯一少しだけ楽になる方法が「食べない」ことでした。
ですが、それもストレスがたまります。今こうして食べられる物がわかってストレスから解放されてありがたく思っています。
3週間くらい前、不眠も重なり精神的に辛くて、以前処方されたことのある大建中湯(宇野先生が有効であると仰っていたので)をまた飲んでみようかと、以前かかったクリニックとは
違う医院に行ったのですが、そこで「リンゼス錠」というアステラス製薬から出している薬を処方されました。
最初の2、3日は「特に変わんないや」と思ったのですが、でも低フォドマップの食事を守っていたからなのか併用していたのが効いたのか、気づいたらガスを感じなくなり、また圧痛も感じなくなりました。しかし排便状態は変わらず、マグネシウムを飲まないとダメかなぁ、という感じでした。
2週間分の薬が終わって、さて飲まずにどうかと観察(?)していたら、やはりかすかな圧痛が戻って来ました。でも、ちょうど外食が重なったりクッキーを一枚食べてしまったりしたのが重なったからなのか正確な原因はわかりません。
この薬に関して、もう少し様子をみてみようと思い、取り敢えずご報告までにメールをした次第です。
私のような患者が先生の研究材料の一つにでもなれば幸いです。
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<回答>
できるだけわかりやすく説明します。
まず、
便秘の多くは、大腸の通過時間が延長しています。
これが基本です。
「大腸内で便が動かない」という状況ですが、
そこで、あまり知識のない人は、「蠕動運動」を活発にすれば便が動いて、便秘が良くなると思いがちです。
よく、下剤の作用について、素人掲示板で、書かれていることです。
「蠕動運動を活発にして便秘を治す」とよく、素人掲示板の薬解説にも書かれています。
しかし、蠕動には、大腸のその場だけで(行ったり来たり)動く蠕動、また、逆蠕動(便が戻る)ものもあります。つまり、蠕動が活発になっても、便が肛門の方に運ばれるわけではありません。
大腸内の便を肛門の方に運ぶ運動は、「大蠕動」であり、「蠕動」とは全く違うものです。
この大蠕動は、通常、1日1,2回です。慢性的下痢の人は、1日数回に増加します。便秘の人は、その頻度が低下します。つまり、大蠕動を発生させることが便秘改善につながり、大蠕動を抑制すると下痢改善に直結します。
では、その大蠕動を引き起こす要因はなにか?についてですが、
それは、大腸の始まりの盲腸へ入り込む水分量で決定されます。
そして、大腸全体の管腔幅が第二の因子です。
簡単に言うと、盲腸へ流入する水分量が少なく、動きの悪いガスだけが大腸で増えると大腸の通過速度は遅くなります。さらに大腸の管腔が太くなると、ますます通過速度が遅くなります。さらに拡張した大腸は、より広い表面積を有するため、水分がより多く吸収され、便が硬くなります。硬い便が詰まる。つまり、これが便秘の状況です。
逆に、盲腸へ流入する水分量が多く、役にたたない蠕動によって管腔が狭くなっている場合には、通過時間が速くなり、管腔が狭いため、水分の吸収も低下し、下痢を来します。
では、まず、水分量を増加させる方法ですが、酸化マグネシウムやリナクロチドによって増やす方法があります。しかし、一旦、水分が増加して大蠕動が得られても、腸管が拡張していれば、その移動性は肛門まで伝わらず、大腸の真ん中あたりで、運動性が消失してしまします。そのため、大蠕動そのものを強くしようとするのが大建中湯です。ですから、リナクロチドが大建中湯の代わりになる訳ではありません。ですから、そのようなことを理解している消化器医は、慢性便秘に対し、「酸化マグネシウム+大建中湯」を良く処方します。私の場合には、胃から小腸の動きを活発にするガスモチンを加えます。その理由は、小腸内の水分量を、より多く速く盲腸へ水分を運ぶためです。
さて、左の側腹部痛について説明します。
慢性便秘546人を分析した私の研究では、約7割は、右の結腸が拡張し、左の結腸が収縮していました。そして、痛み(圧痛)は収縮部にあり、右側は鈍痛から不快感を来します。
つまり、前述した便秘の機序は、右側結腸にあてはまり、左側では、異常な収縮(蠕動亢進)のために通過が滞る状でした。
これには短鎖脂肪酸が関与しているとわかってきました。大雑把にいうと、短鎖脂肪酸は、右側結腸の運動を低下させ、左側結腸の蠕動を亢進させます。
私は左側結腸の蠕動(過収縮)を抑制させるために、「小建中湯」「桂枝加芍薬湯」を使用していました。
そして、「大建中湯+小建中湯」である中建中湯を処方し、多くの人を治療し、その有効を確認しています。
これまでも述べていますが、食物繊維(セルロース、ヘミセルロース)においても大腸でヘキソース、さらにピルビン酸に変わり、それが発酵し、短鎖脂肪酸を発生します。
重要なことは、高FODMAPにしても食物繊維にしても発酵まで時間がかかるので、腸管全体が狭い下痢の人では、発酵によるガスが症状として現れにくいということです。ですから、高FODMAP食で下痢をする人は、放屁は増加するが、腸内のガスは多くないのです。そして、腸管が伸展している人ほど、ガス症状がメインになります。
応用問題として、大腸全体に強い大蠕動と蠕動を引き起こす市販下剤(刺激性下剤)の副作用について解説します。そのような薬は、大蠕動によって、右側結腸から左側結腸に便が運ばれますが、左側結腸がさらに過剰収縮してしまうので、左側結腸に非常に強い痛みを生じます。そして、あふれたダムが壊れるように「ドー」と排便された時に、迷走神経反射などによって、ショックを来すことがあるのです。
下痢の人は、役に立たない蠕動(特に左側結腸)と水分量増加によって腹痛を生じます。理論的には小建中湯が有効といえます。
ということで、痛みのある場合には、便秘では、「大建中湯+小建中湯(桂枝加芍薬湯)」
下痢では、小建中湯(桂枝加芍薬湯)が有効でしょう。
それを処方してくれる医師を探す必要があります。