朝、母の病室に行った。

母は、目を開け、

「ゼクチョン、終わったの?」

と言った。

 ゼクチョンとは、「解剖」のドイツ語である。

母は結婚前に、大学の病理学教室で働いていた。そこで、父と知り合った。

母の意識は、その頃に戻り、私を父と思っているらしい。

もう、昔の母はいなくなったと感じた。

私は、「ああ」

と言った。


今日は母の転院日であった。

母は、救急車でICUに運ばれたが、奇跡的に回復し、

2日間でICUから一般病棟に移り、

今日、地域包括ケア病棟のある病院へ転院した。

地域包括ケア病棟は平成26年の診療報酬改定で始まったが、

非常にありがたいシステムである。

まだ、母は基礎疾患が完治しておらず、立つ事も出来ないため、

退院、移動、入院に1日かかった。

私も非常に疲れたが、母も疲れたようで、午後には熟睡していた。

これまでの母の在宅介護は、家族としてはギリギリの状況であった。

施設に入りたいという母に、「施設に入るにはお金がかかるんだよ」

と言って、母も家族も頑張ったが、ずっと、限界の状況であった。

だから、母も家族もすっきりしている。

そう、思っても、母の部屋のベッドに母が横になっているように、

つい、感じてしまう。

『さあ、一生懸命働かねば・・・』

唇をかみしめた。



 

この空の下で(作詞作曲:norico)

https://www.youtube.com/watch?v=pBawye514q4