私は消化器疾患、特に、大腸疾患を専門としています。そして、大腸疾患について30年間、研究してきました。

私が大学の医局に入った当初、その教室では、大腸憩室の国際シンポジウムを主催するということで、

非常に活気があり、特に、その頃は、食物繊維が大腸憩室や大腸癌を予防できるという概念があった時代で,


また、当時の教授は、「一日一個のリンゴは医者いらず」という結語のシナリオが頭にあったので、

それに直結するデータをつくることが医局スタッフの仕事だったと記憶しています。


 大腸憩室についての国際的な大きな問題は、 欧米諸国の白人では、左結腸、主にS状結腸の憩室が多く、

日本や韓国、中国、東南アジアでは、

右結腸、つまり、上行結腸から横行結腸にかけての憩室が多いということでした。

 入局した頃は、それだけの知識で、その後、「そんなもんだ」、ということだけで、何も疑問も持ちませんでした。

 そして、その後、大腸内視鏡を専門に行うようになって、

右側結腸の憩室からの大量出血を治療する時でさえ、何も疑問も持ちませんでした。


 ただ、大学時代には、大腸内視鏡検査の安全性の研究をしたことがあり、

大腸壁の穿孔の発生機序を調べる時に、そもそも、大腸はどれだけの力が加われば破れるのか?

ということが気になり、外科の先生にお願いして、大腸癌の手術で切除した新鮮標本をすぐに手に入れ、

癌ではない部分に粘膜側から圧力をかけて、大腸が破れる機序を調べていました。

通常、手術で標本が取り切れるのは夜になるので、手術のある日は、

実験のデータ整理や、後片付けで、家に帰ることが出来ないこともありました。

 その時、ビデオ(後に紛失)で撮影していましたが、圧力を加えて破れる際に、

私の手に二段階の衝撃を感じました。

 不思議に思い、ビデオをスローで見ると、初めに筋層が破れ、それが手に伝わった最初の衝撃でした。

その筋層の穴に粘膜が入り込んで、最終的に粘膜が破れるのが次の手への衝撃でした。

それは、加圧スピードに関係はなく、ゆっくりと加圧しても同様のことが起こることを確認し、

その内容を下手な英語でLancetに投稿したところ、

1週間後に、、立派な英語になったゲラ刷りがファックスで送られてきました。

私の下手な英語は、ネイティブな英語に書き換えられ、「これでいいか?」

という編集者のコメントがありました。

そして、そのことについては、ただ、Lancetに載った!ということだけで、

その先を考えることもありませんでした。


 その後、必死に便秘を勉強することになって、夜に医学部図書館に通う日々がありました。

 その頃は、図書館の本棚の前の床に座り込んで、米国の古い雑誌を片っ端から読んで、

便秘治療の歴史から調査したのですが、

ある論文をみて、びっくりしてコピーしました。

それは、大腸の筋層には、初めから隙間があるという1925年の解剖学の研究論文でした。

その時、少しだけ頭に浮かんだのは、この隙間が憩室の原因ではないか?

ということでしたが、Lancetでの実験との関係については結びつきませんでした。

さらに、京都府立医科大学解剖学教室の大腸壁の強さ実験の論文をコピーしたのはこの頃です。


 その後、2年間、沖縄で大腸内視鏡検査をして気が付いたのは、

沖縄では欧米のようにS状結腸の憩室が多いことでした。そして、S状結腸の憩室は、

右側結腸と違って、配列が不規則であるということでした。

右側結腸の憩室では、

結腸紐のある部分の周囲だけに憩室が多いのに、S状結腸ではその傾向がなかったのです。


 低フォドマップ食と出会ってからは、大腸のガスの悪影響を考えるようになりました。

そして、大腸憩室症では過敏性腸症候群と同じ症状を有するという多くの論文を知り、

大腸憩室でも高FODMAPによるガス増加が悪影響していることを理解しました。

そして、欧米の過敏性腸症候群の多くはS状結腸に収縮を来すこともわかりました。

そして、思い出したのが、Lancetの腸が破れる実験と、便秘研究中に見つけた1925年の論文でした。


 欧米で、左側結腸に憩室が多いのは、発生が高齢者に多いことから、

高齢者は、左側結腸が弱くなるのではないか?

そして、その傾向は日本でもみられました。

さらに、加齢による大腸壁の強さの変化を研究した京都府立大学解剖学教室の文献を引っ張りだしたところ、

加齢によって、左側結腸の壁は弱くなり、右側結腸は変わらないということがわかりました。


 つまり、欧米で多い左側結腸の憩室は、加齢により、弱くなるためであろう。

そして、Lancetの実験からみて、最も弱いのは筋層なので、

筋層に隙間ができ、そこに粘膜が入り込んで、左側結腸の憩室が出来ると考えました。


では、右側結腸の憩室はどうしてできるのか?


 日本のデータでは、非常に若い人であっても、さらに3歳以上の小児であっても、

右側結腸に憩室が生じます。

そして、右側結腸は加齢変化では弱くならない。

それは、1925年の解剖学の論文にあるように、

右側結腸の筋層にはそもそもスリット(Cleft)があるということで説明できます。


999


そして、このスリットは、大腸の縦走筋(結腸紐)の影響を受けるため、

縦走筋に接している部位でスリットが生じます。

S状結腸のように縦走筋がばらけてしまう部位では、縦走筋の影響がないため、

S状結腸では縦走筋と憩室発生部位との関係は低くなります。

それは、S状結腸で憩室がランダムに発生しやすいことを説明しえます。


そして最後の課題が、どうして、欧米では、右側結腸の憩室が少ないのか?

ということです。


 全ての憩室は、右側であれ、左側であれ、主にガスの増加による高圧力によって生じるとすれば、

欧米と日本でのガス発生の違いは、何か?

それは、低FODMAP食を勉強しているうちに理解できました。


乳糖です。


乳糖不耐症の発症率の違いです。


 日本人などのアジア人は乳糖不耐症が多いため、乳糖が分解されず、

そのまま大腸へ送り込まれ、大腸で大腸のガスを発生する。

一方、欧米の白人は、乳糖分解酵素を持ち続けるので、多くの人は大腸でガスが発生しない。

それが、欧米白人とアジア人の憩室の分布の違いの原因ではないか?

そこで、確認のため、

多くの国の乳糖不耐症と右側憩室発生の相関を調べると、非常に強い相関がみられました。

要するに、欧米白人でも結腸スリットはあるが、アジア人では、乳糖不耐症によって、

右側結腸のガスが欧米人人よりも多いために、右側結腸憩室が発生しやすいと結論されます。


つまり、長年、謎であった右側結腸憩室の発生機序の理論は成立しました。


以上から、右側であっても、左側であっても、

大腸憩室症では、低フォドマップ食をすべきだと結論できます。


今後、この理論の検証が進むことを希望しています。


以上の理論ついては、以下の論文に記しました。

 

88


Logical hypothesis: Low FODMAP diet to prevent diverticulitis   
 
Yoshiharu Uno, Jennifer C van Velkinburgh 

World J Gastrointest Pharmacol Ther 7(4):503-512.
 

http://www.wjgnet.com/2150-5349/full/v7/i4/503.htm 

 http://www.wjgnet.com/2150-5349/