論文掲載記念特集:IBSとSIBO
今回、Office Uno Columnの発信として、論文が掲載されました。
掲載された論文について、詳細に説明します。
http://www.scirp.org/journal/OJGas/
http://www.scirp.org/Journal/PaperInformation.aspx?PaperID=61111

過敏性腸症候群(IBS)は日本人の中で最も多い疾患です。
症状は、下痢、便秘、または下痢と便秘の繰り返し、腹部膨満、腹痛、鼓腸です。

それらの症状によって、働くことが出来ない人も多数存在します。
我が国が掲げる「一億総活躍社会」にとって、解決しなければならない最優先課題と私は考えます。
IBSの主たる原因は、小腸で吸収されない(され難い)高FODMAP食が、回腸から大腸に至り、高FODMAP成分の高浸透圧によって水分が増加することと、腸管内の過剰発酵で過剰発酵によって急激にガスが増加することが原因です。
(しかし、日本では、小腸から吸収されない食品やサプリメントが痩身ダイエット食やサプリとして大量に消費され、さらに「発酵による健康法」が大々的に宣伝されています。私は、この現状を憂いてなりません。)
欧米では、高FODMAP食の他に、抗菌剤(主にリファキシミン)による治療が推進されています。これは、IBSの多くが小腸内菌増殖症(SIBO)を併発しているという仮説に基づいています。
まず、SIBOについて説明します。小腸にも多少なり細菌が存在しますが、大腸に比してきわめて少ない数です。具体的には十二指腸から空腸にかけては、1万 CFU/ml未満の細菌(空腸の吸引液1ml当たりのコロニー形成単位)が存在しますが、回腸末端部では10億個となり、大腸では1兆個となります。(この1兆個の細菌叢を腸内フローラといいます。)SIBOでは何らかの原因で小腸に菌(主に連鎖球菌、腸球菌、クレブシエラ、大腸菌)が増殖し、その菌によってガスの増加、膨満感、腹痛、下痢などのIBSと同じ症状を呈します。SIBOの診断は、空腸からの吸引液の培養で、通常の10倍以上の10万 CFU/mlが存在する場合と定義されています。しかし、この方法は空腸まで内視鏡を行う必要があり、侵襲的な試験であるので、ラクツロースやグルコース水素呼気検査(LHBTとGHBT)を含むいくつかの非侵襲的方法が一般に診断に代用されています。
その原理と方法について述べると、SIBOは小腸に菌が豊富にあるのであれば、糖質と菌が反応して発酵が起こり、発酵によってガス増えるであろうから、そのガスを呼気のガス(水素ガス)で判断しようとするものです。小腸で発酵が起きなければ、呼気で水素ガスが排泄されない、大腸で大量にガスが発生する前に、小腸での発酵のピークがあれば、それは小腸で発酵が起こっていること、つまり、小腸にそれなりの菌量が存在する、つまり、SIBOであろうとする原理です。実際には、ラクツロース10gを服用して、90分以内に最初のピークがみられるものをSIBOと診断するという方法です。
そして、この呼気テストを行い、IBSの患者の78%にSIBOが存在すると報告したのがカリフォルニア大のピメンテルらです。この報告は2000年に発表され、IBSの治療にはSIBOの小腸の菌を除菌すれば治るという考えが広がりました。
Pimentel
M, Chow EJ, Lin HC. Eradication of small intestinal bacterial overgrowth
reduces symptoms of irritable bowel syndrome. Am J Gastroenterol 2000; 95: 3503.
しかし、その後、多くの研究者がピメンテルと同じような方法で実験を行いましたが、34.5%、43%、44.7%など、ピメンテルらの報告のような高い陽性率は得られませんでした。
Ghoshal
UC, Srivastava D. Irritable bowel syndrome and small intestinal bacterial
overgrowth: Meaningful association or unnecessary hype. W J Gastroenterol 2014;
20: 2484-91.
しかし、この問題を解決しないまま、IBSの抗菌剤治療は推進され続け、リファキシミン治療の大規模多施設間研究がリファキシミンの販売会社のサポートで、ピメンテルを中心に行われ、その結果が、なんと、New England Journalに2011年に報告されました。その報告では、「IBSがSIBOを高率に合併しているから抗菌剤を使用」という理論を明言せず、「IBSは腸内細菌叢の変化の影響を受ける」ために抗菌剤が有効であろうとされました。
Pimentel M, Lembo A, Chey WD, et al. Rifaximin therapy for
patients with irritable bowel syndrome without constipation. N Engl J Med 2011;
364: 22–32
つまり、抗菌剤治療を認識させるためにSIBOが利用され、抗菌剤治療が認識されると、SIBOはあってもなくてもどうでもよいものとなり、SIBOは「腸内細菌叢の異常」に置き換えられたのです。そして、それによって、世界中で最も多い疾患であるIBSに抗菌剤治療の市場が開かれたのです。(このような流れは、降圧剤、高脂血症の治療薬などにもみられます。)
それは、それとして、業界や経済の話であり、学問的にはどうでもいいことです。
問題なのは、SIBOの診断として脚光を浴びた呼気テストの「90分以内のピーク」の意義です。これをどう考えるか?
(つづく)

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